土器の唄がきこえるか


ラテンアメリカやきものの旅      
文と写真   岩国英子
 
                    冬花社  1800円+税

このページで紹介していた「Hidekoのラテンアメリカの旅」が、さらに大幅に加筆を加え練り上げられて、冬花社よりついに一冊の本として誕生しました。
この本はペルーやエクアドルのやきものの
村々を、陶芸家の著者自身が足で歩いて、今やなくなってしまうかもしれないやきもの作りの現場を、写真と臨場感あふれる文で記録している。

たとえば,第三章やきものの宝庫(炎と溶け合う女たちの村ハトゥンパンバ)では、
『アウシリアさんはロープでくるりと束ねた大きな木の束を、背負って運んで来ては、
壺の周りに置く。見ているとピンクのスカートの裾が、木の束を置くたびに不思議と
くるりと舞うのである。ほとんど男たちのいないこの村で、女たちは、地域の溝掘り
などの作業を何もかもみんなでやる。教会を修理するのも彼女たちである。汚れた足
元で艶やかに舞うスカートは、たくましく生きる先住民の女の誇りでいっぱいだ。そ
の布は私には、澄みきった青空に舞う女先住民のピンクの旗に見えたのだ。』
と。
この村に行くことになったのは、近隣の街の大きな市で出会った美しい壺にそそられたからなのだが・・・。しかしこの村に行くこと自体、どこにあってどうやっていけるのかさえなかなかわからない。ハタマタその道中ときたら、今にも転落しそうな断崖絶壁を満員オンボロバスで向かうのだ。こうなると五十代の女の冒険物語の様相だ。
こうして、出会ったやきものが誰によってどのようにして作られるのか、見とどけるために旅は続く。ペルーやエクアドルの熱帯雨林のアマゾン地域やアンデス高地へと駆け巡る。
そして、インカ時代の古都ペルーのクスコ市では、ペルー人陶芸家との出会いの中でとうとう作陶をはじめ、展覧会をも開く。

ところで著者にとって、大切で大好きな「やきもの」「ラテンアメリカ」「旅」「おんな」を楽しく描いているのは、ある意味で当然なのだが、この本の重要な点はもっと別の点にある事に注目されたい。くれぐれも前編のエクアドル篇で読むのを終わりにしないで欲しい。「先進国」日本のアーティストでもある著者が、「途上国」の職人たちとまれなる暖かい出会いをする一方で、異文化と貧困を前に、埋められない「裂け目」を 感じとって立ち止まり苦悩するのです。現地の先住民に寄り添う著者の姿に、その人間性だけではなく、その深い思想的とも言える立場を感じ取ることができるのではないでしょうか。
今、東京ジュンク堂、陶磁器専門書店「AVIS FELIX」などでは、この本がどんなジャンルに並んでいるのでしょうか。海外陶磁器なんてジャンルに、この本をネットで見つけ苦笑しています。

このとりわけ多面的な、おもしろブックについては、どうぞトップページからご注文ください。

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